乾燥

物作りにおいて最も重要な要素と言える「素材」。ギター、ベース等、楽器の素材となる木材は、気温変化・湿度変化の影響を受け、強度・寸法が変化していく 特性を持つ天然の生きた素材です。その為、良質な木材を選ぶ事に加え、乾燥工程は品質を大きく左右する最重要項目に位置付けられます。木材を仕入れてから、楽器として完成するまでの実に85%は、この乾燥工程が占めています。乾燥状態が最適でない場合、完成後の狂いが生じ、十分な演奏性が得られないだけ でなく、楽器としての使用も不可能となる場合もあります。さらに、十分に乾燥された素材は美しい音色を生み出す為にも不可欠です。
 
<最高の素材状態を作り出す自社内乾燥システム>
-蒸煮-乾燥-調湿-降温-

木材はその品種や部位などによって特性が異なり、それら全てが乾燥状態に影響を及ぼします。乾燥状態に影響を及ぼす主な要素として樹種、産地、樹齢、部位、そして用途があげられます。それらの違いを考慮して、最適な乾燥状態を作り出すには高度に管理された乾燥システムが必要となります。自然乾燥だけでは 決して最適な乾燥状態を得る事が出来ません。

素材の複雑な乾燥特性を考慮した乾燥プログラム。
木材は、部分や方向によって乾燥の仕方、それに伴う収縮の度合いが異なります。具体的には繊維方向と半径方向では収縮具合に約10倍の差があります。また 通常の乾燥では、木材の外側から乾燥が始まり、中心部分はなかなか乾燥が進みません。木材の中で起こるこれらの収縮・乾燥の差が、反りやネジレ、そして割 れの原因となります。その為、素材特性に応じて、湿度、温度、時間を綿密に管理した乾燥プログラムが必要です。その為に一言に「乾燥工程」と言う中にも下のような細かなセクションに分け、乾燥は進められています。

  1. 蒸煮・・・温度、湿度を高める事で繊維内の水分移動を効率化する。
  2. .乾燥・・・含水率をほぼ0%の乾燥状態まで徐々に乾燥させる。
  3. .調温・・・安定しやすい含水率7%程度まで水分を戻す。
  4. .降温・・・常温までゆっくりと木材の温度を落す。

 
木材の中の水分を効果的に取り出し乾燥させる為の蒸煮。

木材の急激な乾燥は割れや不規則な反りを起こし易くかえって問題となります。また、外気が乾燥していると木材の細胞は、水分を排出しない様に自らを保護しようと働きます。その為、湿度を下げていく単純な乾燥では十分な乾燥効果を得る事ができません。更に木材内部に含水率の偏りが残り易く、その後の反りやネ ジレ、更には割れの原因となります。そこで、まず湿度100%の状態で木材を蒸す「蒸煮」を行います。これにより木材内の水分移動がスムーズになり、木材 の繊維も柔軟になる為、その後の乾燥を効果的に行うことができ、含水率の偏りも効果的に排除できます。湿度を加える事で、逆に水分を抜き易くなるのです。 繊維が柔軟になる事で、その後の乾燥での木材の反り、ネジレも効果的に防ぐ事ができます。

強力に水分を抜き、強度を上げる為の時間をかけた乾燥。
蒸煮を行い柔軟になった木材を徐々に乾燥させ、含水率をほぼ0%の超乾燥状態にまで乾燥していきます。蒸煮を加える事で、木材のどの部分も水分が抜け易くなっており、余分なストレスを掛ける事無く乾燥を進める事が出来ます。この乾燥により木材の強度は高まります。一般に含水率が1%下がると強度は約4%上 がると言われています。自然乾燥だけではこの様な徹底した乾燥は不可能です。

木材の乾燥状態を長期間維持する事に配慮された調温、降温。
含水率ほぼ0%の超乾燥状態から楽器に適した約7%まで含水率を戻して行きます。家具などの木製品の多くは含水率約15%程度であることを考えると、乾燥の度合いはかなり高いと言えます。その後の木材の温度を正常に戻していく降温を行い、加工前の乾燥工程は終わります。この後本格的な加工工程に入った後も、数回に亘って寝かせ、更に安定させていきます。